「課題曲 花一花 その1」

 この歌がなければ、全日本こころの歌謡選手権大会が開催されることはなかった。友達の紹介で初めて会った美樹克彦は、話の途中でこう言った。「恩師の星野哲郎の詞で、僕が曲を書いた大事な歌がある。ぜひ、聴いてもらいたい」。3日ぐらいして美樹が弾き語りで歌ったデモテープが送られてきた。「これはこの世に二つとない花の咲く木でございます。今宵あなたに捧げます」。美樹は星野哲郎のところへ植物図鑑持参で押しかけ「先生、死ぬまでに一度しか咲かない花があるんです。そういう歌を書いて下さい」。頼んだ美樹が驚くほど早く電話があった。「できたよ」。星野は「ヒントをくれてありがとう」と言った。さて、その花は何か。めったに花を咲かせない植物はいくつかある。例えば竹は120年に一度花が咲いて枯れる。根茎でつながっているので、竹林が全滅する。昔からよくないことが起こる前兆といわれている。

「一花(いちげ)」という呼び方から探すと「ハクサンイチゲ」が出てくる。漢字では「白山一花」と書く。アネモネに似た白い可愛い花の高山植物だが、一度しか咲かないとは書かれていない。外国には「センチュリープランツ」と呼ぶ100年ぐらいしないと咲かない花が何種類かある。その花が何かはわからなくとも「トゲで守って生きたのは今宵一夜のためでした」という名曲が誕生したわけだから良しとしよう。

 「この曲を女性歌手に歌ってもらってそれを星野先生は聴いている。この曲を歌うにふさわしい歌手を探してくれると嬉しい」。僕もこの歌は世に出すべきだと考えた。美樹克彦本人が弾き語りで歌う選択もあると思った。デモ歌唱の入ったCDを大手レコード会社の人に渡した。「いい歌ですね。わが社の◯◯に歌わせましょう」という返事がきた。大物女性歌手である。ありがたい、しかし、と思った。あの人にはこの曲は合わないと感じて、僕のほうから断った。

 

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