「出会えた人出会えなかった人 井上陽水 その2」

 僕の書いた「島倉千代子という人生」(新潮社)の出版記念パーティーの2、3日前のことだった。

 小室等から連絡が入った。「陽水が自分のところに案内状が来ていないといっているけど。」「絶対来ないと思ったので案内状を出していません。出しても忙しいから来ないでしょう。」「いや、行きたそうだよ。出してみたら。」案内状を出した。

 そしたら、当日、小室等と一緒に現れたのである。背も高いし、600人の出席者でごったがえしていた会場でも目立つ。「二人で何か一言」と頼んだ。陽水は「僕が子供のころ人前で初めて歌った歌が島倉千代子さんだったんですね。その1節を」と言って、少し首を左にかしげながらアカペラで歌い始めた。あの声だった。「ここが ここが 二重橋、記念の写真を撮りましょうね、“ね”だったか“か”だったか」。島倉千代子も目を丸くしていた。

 陽水の独特の声と話し方、そして存在感は古稀に近いいまでもまったく変わらない。父親が歯医者で、本人も歯科大を受験し、何回か落ちている。合格していれば井上陽水という歌手はいなかっただろう。「僕の父親はねえ、歯医者といっても免許は持っていないもぐりみたいなものだったんですよ」。この人は自分を偉く見せようとしない。いつもそういう話しぶりである。

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出版記念パーティー当日のお2人のあいさつの様子

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