「出会えた人出会えなかった人 美樹克彦その2」

 どうしてもその歌を聴いてみたい。美樹は僕のためにギター弾き語りで歌い録音したCDを送ってくれた。「花一花」(はないちげ)(作詞:星野哲郎作曲:美樹克彦)(これはこの世に二つとない 花の咲く木でございます 今宵あなたに捧げます)淡々と歌う美樹の歌い方がいい。美樹がぼくに言った。だれか歌う人を探してくれない? わかった、預かるよ。メジャーなレコード会社の知り合いに手渡し聴いてもらった。「うちの◯◯に歌わせたい」。ぼくはすぐに断ってCDを引き取った。歌とその大物歌手のイメージがあまりに違うからだ。
 八王子のコンサートで、美樹が初めてこの歌を弾き語りで歌うことになった。ところが当日、美樹は声が思うように出ない、とギターを抱えて俯いていた。本番の直前、ギターを抱えた美樹は舞台の袖にいた僕を呼んだ。「一応、歌い始めるけど、たぶん、声が続かないと思う。悪いけど、そうなったらそこからはあなたが歌ってくれ」練習もリハーサルもなし。もちろん、思い入れがある曲なので何度も聴いている。美樹は歌い始めたが、声はほとんど出ていない。おまけにギターを弾きながら泣いているようだった。客席からははっきり泣いているのがわかったらしいが、隣で代わりに歌い始めた僕には見えない。
 この場面は観客席の感動を誘ったらしい。ほとんど歌わずに観客の涙を誘う。もしこれが芸だとしたらすごいが、ほんとうに泣いていたらしい。この歌を何とか世に出したい、そういう思いが全日本こころの歌謡選手権大会を開催し、これを課題曲にしようという企てのきっかけである。電話で美樹克彦に「八代亜紀さんに歌ってもらうことにしたよ」と告げた。美樹の言葉は聞こえず、嗚咽のような呼吸音だけがスマホから漏れてきた。すぐに感激するタイプだから、泣き上戸かもしれない。

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